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東京高等裁判所 昭和22年(オ)41号 判決

上告人 控訴人・被告 萩原嘉宏

訴訟代理人 田中依男

被上告人 被控訴人・原告 岸田正雄

訴訟代理人 小林昶

主文

原判決を破毀し、本件を大阪高等裁判所に差戻す。

理由

上告理由は、別紙上告理由書記載の通りである。

原判決の理由の部によれば、原審は、上告人家の戸主萩原音松が、昭和十五年五月二十日及同年六月十日の兩度に、いづれも、金額を五千圓、受取人を被上告人と記載し、滿期その他の要件を白地のままとした約束手形各一通を振出し、被上告人は、その後補充權に基いて、前の手形の滿期を昭和十三年五月十九日、後の手形の滿期を同年六月九日と記載した外、各手形の振出地及び支拂地をいづれも神戸市、支拂場所を自宅と記載してこれを所持しておる事實、並びに上告人家の家督相續が、右音松から竹之助及び孝を經て上告人によつて爲された事實を認定したうえ、上告人から提出した、被上告人が右音松のために負擔した保證債務を履行しない限り、上告人には右手形金を支拂う義務がない、と云う趣旨の抗辯を排斥して、右二通の手形金及びこれに對する本件訴状送達の翌日以降の法定利息の支拂を求める、被上告人の本訴請求を認容したことが明かである。

しかし、被上告人が、手形權利者として、昭和二十一年三月三日以後、右手形上の請求をするについては、右手形を取扱機關を經由して所轄税務署に提出して、その財産申告を爲すことが必要であり、これをしない場合には、爾後右手形上の請求を爲すことができず、又上告人が手形義務者として、辨濟その他債務を免るべき行爲をしても、その効力を生じないことは、昭和二十一年勅令第八十五號臨時財産調査令第二條第一項第三號、第九條、同令施行規則第一條、第三條、第十條、第十三條、第十五條、第十六條の各規定に徴して明白であつて、この理は裁判上請求を爲す場合にも變りがない。しかるに、原審は、右日時後なる昭和二十二年四月一日に、本件の口頭辯論を終結しながら、本件各手形について、その權利行使の要件たる前記の申告が爲されたか、どうかと云う點に關しては、被上告人に對して釋明を求めることなく、なんら審理判斷をしないで、被上告人の本訴請求を認容したのは、審理を盡さない違法があるものと云うことができる。

原判決はこの點において破毀を免れない。よつて、民事訴訟法第四百七條に従つて主文の通り判決する。

(裁判長判事 箕田正一 判事 玉井忠一郎 判事 大野璋五 判事 柳川昌勝 判事 多田威美)

代理人田中依男上告理由

原判決ハ「………さうして控訴人が原本の存在と其の成立を認める甲第三號證の二、原審鑑定人西谷喜一、赤木壽惠夫の各鑑定の結果を考へ合はせて眞正に成立したものと認める甲第一號證の一、二、原審証人萩原勝榮子、吉田吉助の各證言及原審並當審に於ける被控訴本人訊問の結果を綜合して觀察すると、音松は隱居前の昭和十五年五月二十日と同年六月十日に金額五千圓の約束手形各一通を何れも受取人を被控訴人と記載し、滿期日其の他の要件を白地の儘で振出して被控訴人に渡し、被控訴人は此の手形二通の所持人となると同時に手形を補充する權利を得たので、其の後此の補充權に依て前の手形の滿期日を昭和十三年五月十九日後の手形のそれを同年六月九日と補充した外、振出地、支拂地を神戸市、支拂場所を自宅と記載したことが十分に認められ、此の認定を動かすための反證がない………さうして見れば他に本件手形の請求を阻む特別の理由のない限り、振出人である音松から順次に家督相續をした控訴人は、右の手形金合計一萬圓に訴状が控訴人に送達された翌日であることが當院に顯著である昭和十六年二月二十三日から支拂濟迄手形法の定める年六分の法定利息を附けて支拂はなければならないことは明かである」ト説示シ其ノ他控訴人ノ抗辯ヲ排斥シテ被控訴人ノ請求ヲ認容シタリ。

然レトモ手形所持人ニシテ昭和二十一年三月三日午前零時以後手形權利ヲ行使セントセハ當該手形ヲ取扱機關ヲ經由シ所轄税務署ヘ提出申告スルコトヲ要シ、之ヲ爲ササルニ於テハ右ノ時以後手形金ノ支拂ヲ請求シ又ハ譲渡其ノ他ノ處分ヲ爲スコトヲ得ス又債務者ハ其ノ支拂其ノ他自己ノ債務ヲ免ルヘキ行爲ヲ爲スコトヲ得ス之等ニ違反シテ爲シタル辨濟其ノ他ノ處分ハ其ノ効力ヲ生セサルコト昭和二十一年勅令第八十五號臨時財産調査令第二條第一項第三號同第九條同施行規則第一條第三條第十條第十三條第十五條第十六條ノ各規定ニ徴シ明白ナルカ故ニ原審ニ於テ被控訴人ノ請求ヲ認容シ控訴人ニ手形金ノ支拂ヲ命シタル第一審判決ヲ維持セントセハ須ラク證據ニ依リテ前掲原審認定ノ外ニ被控訴人ニ於テ右法令所定期間内ニ本件甲第一號證ノ一、二ノ手形ヲ取扱機關ヲ經由シ所轄税務署ヘ申告濟ナル事實ヲ認定セサルヘカラス。然ルニ原判決ハ斯ル重要ナル事實ノ説示ヲ缺クノミナラス復タ本件記録ヲ調査スルモ本件甲一號證ノ一、二ノ手形カ證據トシテ原審ヘ提出セラレタルハ昭和十九年三月十七日ノ口頭辯論期日ニシテ之ニ對シ控訴人ハ即時ニ不知ノ陳述ヲ爲シタル以來原審終結ニ至ル迄該手形ニ付前記法令ニ基ク所轄税務署ヘ申告手續ヲ了シタルコトニ付テノ主張及立證ヲ爲シタル形迹ナシ。然ラハ原判決ハ前記法令ニ違反シ既ニ國庫ニ歸屬シタル手形權利ニ付不法ニ被控訴人ノ權利ヲ認メテ控訴人ニ其ノ支拂ヲ命シタル違法アルカ又ハ釋明權ヲ行使セス審理不盡理由不備ノ違法アリ。此ノ違法ハ當然原判決破毀ニ價スルモノト思料ス。

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